イカール「歌のレッスン」のご紹介

イカール エッチング オリジナル 版画 歌のレッスン Music Room icart
イカール「歌のレッスン」(1934年 エッチング) 額サイズ:63×70cm

 

こんにちは。

ブログをお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

数年前の話題にはなりますが、某音楽家が自分名義で発表した一連の楽曲の裏には、実はゴーストライターが存在していた、という世間を大きく騒がせた事件がありましたね。

 


 

日本に流通する音楽著作権の管理団体であり、

音楽家の著作権を信託管理する「JASRAC(日本音楽著作権協会)」は、

これらの楽曲の"著作権の帰属先が明確でない"として、この音楽家との契約を解除。

現在、楽曲使用料の支払いをめぐる訴訟にまで発展しているというから、

音楽著作権という問題の複雑さを改めて認識させられます。

最近では、音楽教室で教育目的に楽曲が使用される際にも、

演奏著作権を徴収すべきであるというJASRACの見解も物議をかもしているようです。

 

さて、その「音楽著作権」。

どのようにして誕生し、発展していったのでしょうか。

 

そもそも著作権誕生の大きな礎となったのは、ヨハネス・グーテンベルグ(1398頃-1468)による活版印刷技術の発明でした。

この発明によって、それまでは手書きによる複製であった紙出版物が機械で複製できるようになり、

音楽の楽譜も、多くの人々の手に渡るようになります。

 

しかし、とは言うものの。

まだまだ手間のかかる高価なものであったため、手にできるのは主として上流階級の人々たちに限られていました。

また、フランスでは王立劇場以外における音楽演奏会の開催は禁止されていたり、

さらに、印刷業に従事するためには国王からの勅許が不可欠。

 

ましてや当時は、現代のようなCDやインターネットもない時代。

このような厳しい規制の下では、無作法に楽譜が広まり、勝手に楽曲が演奏される機会などなかったため、

著作権問題が起こることもほとんどなかったのです。

 

活版印刷機
活版印刷機
活字金属板
活字金属板
活版印刷による18世紀の楽譜
活版印刷による18世紀の楽譜

 

ところが、1789年に勃発したフランス革命により王権が廃止。

王侯貴族が独占していた様々な特権やしがらみがなくなり、民主主義の成立に向けた制度が徐々に整っていきます。

国民が選択できる職業の幅も広がり自由競争が生まれ、資本経済も発展。

民間の印刷業者が増加したことで、楽譜の印刷・販売も一気に普及しました。

 

また、音楽コンサートも自由に開催できるようになると、

飲食をしながら生演奏の音楽を楽しめる街のカフェ(カフェ・コンセール)や酒場が大流行。

人々の生活は急速に変化していきました。

 

しかし、こうした社会発展の陰で、ある事件が発生します。

1847年9月、作詞家のアーネスト・ブルージェ(1814-1864)が、

作曲家の友人アンリオンとパリゾとともにカフェ・コンセールで食事をしていた時のこと。

彼らの作曲した楽曲がカフェで演奏され始めたのです。

無断で楽曲が使用されたことに憤った彼らは、その対価として飲食代の支払いを拒否。

カフェ経営者との全面的な争いが裁判沙汰になりました。

 

結局、音楽家たちが勝訴し、営利目的による無許可での楽曲の演奏は禁じられます。

音楽著作権という概念そのものが登場し、それを保護しようとする動きが最初に行なわれた画期的な事件でした。

 

ブルージェ(左) アンリオン(中) パリゾ(右)
ブルージェ(左) アンリオン(中) パリゾ(右)
人々が集うカフェ・コンセール
人々が集うカフェ・コンセール

 

事件後、ブルージェは今後自分の楽曲が勝手に演奏されることのないよう、

カフェや酒場と直接、著作権契約を結ぼうとしますが、

これを各音楽家が個人的に行なっていたのではとても非効率ですよね。

 

そこで、全ての音楽家たちの著作権を保護・管理する目的で、

「SACEM(Societe des Auteurs, Compositeurs et Éditeurs de Musique)」という、

世界で初めての音楽家著作権組合が1851年の1月に創設されます。

これにより、営利目的で楽曲を生演奏する場合や、楽譜などの印刷物の出版にはロイヤルティが義務付けられるようになりました。

SACEMは批判や訴訟などを繰り返しながらも、着実にその使命を果たしていき、

現在その会員数は16万人にまで増えているそうです。

 


 

さて、本日ご紹介する作品。

ピアノの傍に立ち頬を赤らめながら歌う女性と、楽譜を覗き込む二人の女性たちが描かれた、イカールの直筆サイン入り銅版画「歌のレッスン」。

 

透明感のある小鳥のような歌声が今にもハーモニーとなって聞こえてきそうな本作は、SACEMに大きく関係する作品なのですが、そのつながりとは何でしょうか。

イカール「歌のレッスン」(1934年 エッチング)
イカール「歌のレッスン」(1934年 エッチング)

 

 

 

実はこの「歌のレッスン」は、楽曲を登録した音楽家や出版人に発行される

SACEM会員証の原画となった作品なのです。

 

実際の会員証には右上の部分にSACEMの名称と、

右下に宣誓文などが付け加えられました。

 

実際の会員証(参考写真)
実際の会員証(参考写真)

 

ちなみに、銅版作品の裏には10数名の直筆署名があり、これらは全てSACEM関係者たち。

明確な意図は分かりませんが、署名を残した関係者たちと交流のあった人物への贈り物であったのかもしれません。

 

作品裏のSACEM関係者署名
作品裏のSACEM関係者署名

 

音楽の違法ダウンロードなどが身近な社会問題にもなっている昨今。

その管理や取り締まりは特に困難を極める分野ではありますが、

音楽の価値を守るため、そして制作者の権利を庇護するために音楽著作権は絶対になくてはならないものであると痛感します。

 

イカールの作品と関係者たちの署名には、その使命への強い意志と団結力、そして何よりも音楽への深い愛が感じられるようです。

(R・K)

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