バルビゾン派を魅了したガラス版画「クリシェ・ヴェール」

*このページは移転いたしました。→ https://www.atelier-blanca.com/blog/2017/02/28/barbizon-cliche-verre/

 

こんにちは。

ブログをお読みいただきありがとうございます。

一年で最も寒いと言われる2月も本日で終わり。

真冬の寒さを乗り越えて、そろそろ太陽の日差しが恋しくなるのがこの時期。

降り注ぐ明るい陽のもとにいるだけで、何だかいいことがありそうな気分になりますね。

 

本日ご紹介する作品たちも、輝く太陽の光を待ちわびたバルビゾン派の画家たちにより制作されたもの。

 

しかし、彼らが太陽の光を望んだ理由は、印象派が追求したような「陽光により生まれる色鮮やかな色彩」のためではありませんでした。

彼らは「陽光により生まれる黒の濃淡」のため、強烈な太陽光を望んだのです。

 

一体どういうことでしょうか。

 

ドービニー「榛の木」
ドービニー「榛の木」

 

「陽光により生まれる黒の濃淡」とは、1850年代から70年代にかけて、

コローを筆頭にミレーやドービニーらバルビゾン派の画家たちを夢中にさせたある版画技法のこと。

<クリシェ・ヴェール>(ネガ・ガラスの意)と呼ばれるその版画は、

原版に描画した図柄を紙に写し出す際に、インクではなく何と「太陽光」を利用したのです。

 

その仕組みはこうです。

①ガラス板にコロジオンあるいはインクを塗布し光を通さない皮膜を作る

②ニードルなど先の尖った道具で皮膜を引っ掻くようにガラス板上に描画する

③ガラス板の下に印画紙を敷き、太陽光で感光させる

④皮膜がむき出しになった部分から日光が通過し、印画紙上に黒い図柄が現れる

 

一見とても簡単そうにも思えますが、木版や銅版、石版画など他の版画に比べてそこまで波及することはありませんでした。

この<クリシェ・ヴェール>が生まれ、発展し、そして衰退した背景には何があったのでしょうか。

 

 

 

 

 

インクを使用しないという、一般的な版画の常識を覆す画期的な版画<クリシェ・ヴェール>誕生のきっかけ。それは、現代写真技術の発明にさかのぼります。

 

暗室に小さな穴を開けると、日光を通して外の景色が内部の反対側の壁に上下逆さまに映される「カメラ・オブスキュラ」という現象は紀元前より知られていましたが、フランス人のジョゼフ・ニエプスは1827年、この原理を応用させて、壁に投影された像を科学的に写し取ることに成功。世界で最初の写真が撮影されました。

 

カメラ・オブスキュラ
カメラ・オブスキュラ
ニエプスによる世界最初の写真(1827年)
ニエプスによる世界最初の写真(1827年)

 

その後、像の定着に必要な感光剤の種類や版材の改良開発、露光時間の研究などが重ねられ、

ダゲレオタイプやカロタイプなど次々と新しい写真技術が発明されていくこととなりました。

 

<銀メッキを施した銅板を用いるダゲレオタイプ>

<硝酸銀を塗った紙ネガを用いるカロタイプ>


 

すると、今度はその写真技術を版画に活かそうとする動きが生まれ、その研究の中で<クリシェ・ヴェール>が考案されます。

グランギョームやキュヴリエといったアマチュアの写真家たちがその技法を画家コローに教え、

以降他のバルビゾン派の画家たちに広まっていきました。

 

バルビゾン派の画家たちの中でも、特に<クリシェ・ヴェール>に惚れ込んだのが、コローです。

研究熱心であった彼は、描画の際に固い筆やブラシで皮膜を微細に傷つける技法を自ら考案。

この技法はタンポナージュと呼ばれ、皮膜に細かな穴を開けることでもたらされる、

霧がかった繊細な大気の効果を好んだコローは、約20年間に66点の<クリシェ・ヴェール>を制作。

太陽の光により生み出された柔らかなモノトーンの諧調が美しい<クリシェ・ヴェール>は、

コローが油彩画を制作する際にも大きな影響を与えたと言われています。

 

コローのクリシェ・ヴェール(全体)
コローのクリシェ・ヴェール(全体)
繊細な大気表現(左作品の右上部分)
繊細な大気表現(左作品の右上部分)

 

しかし、飛躍的に進む写真製版の技術向上により、<クリシェ・ヴェール>は1870年代に衰退。

しばらくの間、この技法が顧みられることはありませんでした。

 

再評価の兆しが訪れたのは1921年。

コローらが1850-70年代に手がけた<クリシェ・ヴェール>の原版を入手した、

美術商兼出版人のモーリス・ル・ガレックが40枚の原版を各150枚づつ刷り復元。

これを一冊にまとめた挿画本「40点のクリシェ・ヴェール」を150部限定で出版しました。

 

ちなみに、原版はむやみな複製を避けるため、ル・ガレックによる1921年の刷りの後は

ルーブル美術館やボストン美術館などに保管され、今でもその稀少性が保たれています。

 

当店では、この挿画本「40点のクリシェ・ヴェール」をお取り扱い。

東京・上野の国立西洋美術館にも同書が所蔵されており、美術愛好家のみならず

研究者たちの貴重な学術資料として今でも高く評価されていることが分かりますね。

 

本日は、バルビゾン派を魅了した知られざる版画<クリシェ・ヴェール>をご紹介しました。

「40点のクリシェ・ヴェール」詳細はこちら

 


ミレー コロー ドービニー クリシェ・ヴェール ガラス版画 バルビゾン 販売

 

 

 

「40点のクリシェ・ヴェール」

 

出版元:モーリス・ル・ガレック

出版年:1921年

部数:150部


ミレー コロー ルソー ドービニー バルビゾン クリシェ・ヴェール ガラス版画 オリジナル 販売
ミレー「母親の心づかい」
ミレー コロー ルソー ドービニー バルビゾン クリシェ・ヴェール ガラス版画 オリジナル 販売
コロー「森の入り口に立つ若い母親」

ミレー コロー ルソー ドービニー バルビゾン クリシェ・ヴェール ガラス版画 オリジナル 販売
ルソー「プランタ=ビオの野原」
ミレー コロー ルソー ドービニー バルビゾン クリシェ・ヴェール ガラス版画 オリジナル 販売
ドービニー「川の浅瀬」
ミレー コロー ルソー ドービニー バルビゾン クリシェ・ヴェール ガラス版画 オリジナル 販売
ドービニー「野原にたたずむロバ」

(R・K)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

アトリエ・ブランカでは、軽井沢・吉祥寺の直営ギャラリーにて、

アール・ヌーヴォーやアール・デコのガラス工芸をはじめ、 絵画や版画、挿画本、シルバーウェア、

アンティークジュエリー、彫刻・ブロンズ、アンティークカードなど

美術館さながらの見ごたえある作品を販売しております。 

 

アトリエ・ブランカHP

http://www.atelier-blanca.com/


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

←次の記事

前の記事→